胃のかたち
上田信治による俳句研究。
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その句がそんなによかったか
若き日の高野素十は、捨女の「雪の朝二の字二の字の下駄のあと」で、俳句開眼したのだそうだ。「俺は、俳句はこれでいい」というようなことを、人に語ったらしい。どうも素十という人は、ほかの作者と、違う成分でできている。

   甘草の芽のとびとびの一ならび  素十

この「とびとびの一ならび」は、かなり「二の字二の字の」と、近しいものだろう。二句に共通する、メカニカルな一致というか、ぴたりと言い得て、しかもそれだけなかんじが、素十のツボなのかと、想像してみる。

   ゆれ合へる甘茶の杓をとりにけり  〃

筒井康隆の「虚航船団」の登場人物の一人に、人間化した文房具のナンバリングスタンプがいる。彼は、まわりには重厚な人物とみなされているが、実は周囲の事象を数としてカウントすることにしか興味がなく、そのスタンプの数字がそろって変るとき(9999....が0000.....になるとき)うーーん、と快感のため息をもらす。

素十もまた、感覚入力と、言葉による把握と、その言葉じたいの姿などが、ぴたりと揃うと、うーーんと、快感のため息をもらすような人だったのではないか、と……。いや、失礼な想像になってしまったが。

「二の字二の字」から補助線を引いて、素十のことを考えると、いわゆる自然観照や人間的感情とは全く無縁の、素十だけの快感原則が見えてくるような気がして、思わず、目を凝らしてしまうのだ。そのことは、自分にとって「考え減り」のしない、気に入りの謎のひとつである。

甘草の句が「草の芽俳句」「瑣末主義」と批判されたことについて、素十は、甘草は「一つのいとけなき宿命の姿」であり「かなしきものと感じ美しきものと感じた」(「芹」S38,2 )と書くのだが、それは文学的アリバイというか、作者本人にもそういうふうにしか説明できなかったということだろう。それよりも、同じ文中で「とびとびの一ならび」であって「とびとびに一ならび」では、ないのである、と、コレデグウノ音モデマイ、と言わんばかりに言っているのだが、この馬鹿馬鹿しさが、素十らしくて好きだ。

   町中の小公園の茂りかな     〃

という素十の句について、虚子は「こういう句を作っていれば間違いはないし、又こういう句を採れば間違いはない」と言ったという。
「虚子先生の言葉は、私にどういう意味でいわれたのか、先生の意図はどんなところにあったものか、それから度々考えるのであるが未だに判らないままなのである」「そういう意味の判らぬ、然しはっきり覚えている先生の言葉を、遠くのものを見るように判らぬままに時々思い出して繰り返してみるということも、また楽しい一事なのである」(「芹」S40.7 )と、素十は書いている。

虚子が、この句のどこを指して「こういう句」といい「間違いない」と言ったのか。
これも、いい謎である。いい謎を残してくれるのが、いい先生なのだろう。(内田樹もそんなことを言っていた)
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コメント
この記事へのコメント
追記
四ッ谷龍さんは、「三人の斜めの顔」という素十論(セレクション俳人「四ッ谷龍集」所収)のなかで、素十には「描かれた物自体よりも『スキ間のある状態』そのものが」好ましかったと考えられる、と指摘しています。ああ、ほんとだ。

   ばらばらに飛んで向ふへ初鴉
   赤潮のきれぎれにある赤さかな
   水馬流るゝ黄楊の花を追ふ
2006/07/12(水) 17:37:22 | URL | 信治 #tl9rY.2.[ 編集]
おもうしろうございます
素十のツボ、虚子の「間違いない」発言、どちらも滋味があります。

後者は、謎というより、秘儀と呼びたくなります。謎は解けるかもしれないが、秘儀は「明かされぬこと」のみが成分。わかっちゃったら終わり、という感じも、むんむんするざんす。
2006/07/15(土) 09:26:35 | URL | てんき #iZL8muj2[ 編集]
はい、
素十も、わからないという姿勢を、長年キープしたのだろうと思います。わからんよなー、と思うと、じわーと湧いてくるものがあります。
2006/07/15(土) 14:10:13 | URL | 信治 #tl9rY.2.[ 編集]
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高濱虚子のイメージをひとことで言うと、「喰えないやつ」。最近の2つの記事が(意図やアプローチはまったく異なるが)呼応していて興味深い(そして、いずれの記事も含蓄)。ひとつは橋本直さんのブログのこの記事。http://haiku-souken.txt-nifty.com/01/2006/07/post_576
2006/07/29(土) 00:36:55 | 俳句的日常 come rain or come shine
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