胃のかたち
上田信治による俳句研究。
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「魚座」の俳句(1)
俳句というものは、谷の上をひょろひょろと伸びていく糸のようだと、感じることがある。糸がうまく谷を渡りきれば拍手喝采。だが、その「谷」じたいが、「糸」の渡りと、同時に生成するものなのでややこしい。

つまり、言葉の線的な性質。言葉とは、耳に入ってくる音の順番・語の順番のことだから、意味をなしながら伸びてゆく、継時的な(それを空間的に例えれば)線的性質を持つ。

今井杏太郎の句を読むと、いつも、そこから、言葉の線的性質に対する意識を感じる。たとえば句集「海鳴り星」を適当に開けてみる。82pと83pの見開きには、こんな句がある。

  のうぜんの花は遠くに見ゆるなり   今井杏太郎
  珈琲を吹いて飲むとき日の盛り    〃

意味やイメージを取りだして言うことが、ことさらにむなしくなる句だ。内容を最小限にして、言葉をたらりたらりと耳に流し込んでいくその過程に、この作者は賭けている。

「のうぜん」の句。上五中七の谷間(*1)を越えてくる流れを、「花」で受けているところが、ナイスキャッチである。句またがりのようなそうでないような、意味的にはあってもなくてもいい「花」で受けて、糸は難なくつながって、
「は」で、話者を意識させ、
「遠くに」「見ゆる」「なり」と、ゆらゆら、ゆらいで終る。(*2)

思わず、そうですか、と言いそうになるが、杏太郎自身、俳句は「そうですか」で十分、と書いているので、それでいいのである。
(この項つづく)

*1 以前、「すーっと入る」という記事を書いてから、上五と中七のあいだに生じる呼吸の間を、言葉がどう越えていくかが気になっている。藤田湘子のいわゆる「上五で切る」俳句の基本形には、意味上の切れと呼吸の切れを一本化して、コトを単純化する、つまりは形を安定させる、という意味があるのではないか。

*2 「見ゆるなり」=(という、まあ、アタシの見えかたの、はなし)。花が遠いと言いながら、話者自身が、遠くに行ってしまったようだ。
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コメント
この記事へのコメント
上五ののち
中七から下五って、息継ぎナシですよね。
音楽で言うスラーが上五でひとつ、中七下五でひとつ、かかってるかんじ。

上五からの句またがりは、ふわっと受けるか、ぞぞぞぞーっと流すか、だと思う。
2006/11/06(月) 09:13:08 | URL | アヤカ #fYdA4Rtg[ 編集]
冒頭から、
谷が出てきてびっくりしました。
2006/11/08(水) 00:51:17 | URL | ユースケ #v14okzU2[ 編集]
とても勉強になります
天気さんのところから遊びに来ました。鎌倉の谷戸の上に住んでいる猫髭という老境に入りつつある俳句初心者です。はじめまして。
上田さんの俳話、とても勉強になります。特に「すーっと入る」の素十観。この俳人、有名だけどどこがいいのか腑に落ちなかったが、目から鱗。何度も読み返しています。そうか、動詞から入るか。確かに謎が生まれますね。そして中七から座五へのテンション。平明な句なのに、ひっかかるのはこの謎とテンションだったのですね。唸りました。俳句を読む喫水線が深くなったよう。

観察の俳句は「あ、そう」ですが、観察を超えると意味を削ぎ落とした「そうですか」になるのね。そして、そこにとどまる。言い募らない。これも目から鱗。飄々俳句ですね。
2006/11/08(水) 19:19:48 | URL | 猫髭 #-[ 編集]
ひどい遅レスですいません
猫髭さん、はじめまして。
過分のお言葉をいただき、恐縮です。

いつか、虚子の新歳時記をプッシュしてらっしゃいましたよね。ぼくも、あれは、好きな本です。横長のサイズが縦の箱に収まっているところが(軽装版のほうですが)なんとも、かわいらしい。

「冬」の項に「のらねこの糞してゐるや冬の庭 子規」とかあって、この句は虚子の「季寄せ」にも残っていて、けっこう大事にされていて(これも「そうですか」ですね)。こういう句が入集しているところが、あの歳時記が、自分にとって「開かれて」いると、感じられるところです。猫髭さんが「例句もみんないい」と、書かれているのを見て、さらに意を強くしたことでした。

ではでは。

2006/11/25(土) 14:58:44 | URL | 信治 #tl9rY.2.[ 編集]
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